お菓子・お酒 他
黒糖にくぐらせたお餅にたっぷりのきなこをまぶした「あべかわ餅」は、福井県の名物の一つ。夏の土用餅として、身近なおやつとして幅広い世代から長く愛されている和菓子だ。
越前市国府にある「四季の餅あめこ」は、創業1782年の老舗和菓子店。竹の皮で包まれた「あべかわ餅」はあめこの定番の味で、毎日開店直後から多くのお客さんが買い求める。ふんわりと漂うきなこの香ばしい香りにコクのある黒糖が絡んだ餅は、驚くほどなめらかでやわらかい。添加物は一切使っていないため、出来立てを食べるのがおすすめだ。
店を担うのは、12代目の渡辺岳史さんと、次男の淳さん親子。岳史さんは、日本とアメリカでサラリーマン生活を送ってきたが、3年ほど前に先代から店を引き継いだ。「小さい頃から“あめこの息子”と呼ばれ、幼いながらも地元で愛されている店なんだなと感じていました。家業のことはずっと頭にありましたが、なかなかふんぎりがつかず。お客さまや周囲の方の勧めもあり、この店を残そうと決心しました」と岳史さん。そんな父の背中を見ていた息子の淳さんも大学卒業後、ホテルマンを経験して2019年4月から父と同じ道を歩み始めた。
毎日の仕込みは朝早く、7時頃になると餅米を蒸すいい香りが店内に漂う。「餅はシンプルなようで奥が深く、ごまかしがきかない」と岳史さん。やわらかな餅の秘訣は絶妙な水分と、短時間にできるだけ素早く多く餅をつくことだそう。水分は少なくても硬くなるし、多すぎるとすぐに品質が落ちてしまう。季節や日によって変化する温度や湿度を見極め、微妙に蒸す時間や水分の量を変えるなど、できるだけ美味しい状態を長く保つための工夫は欠かさない。最近では淳さんがあべかわ餅づくりを任されるようになり、「常に同じクオリティのものをつくること」にこだわり試行錯誤を続けている。
代々受け継がれるあめこの「あべかわ餅」。一方で、岳史さんの代になってからは商品の種類を増やしたり、あんこの製法を変えてみたりなど、新しい挑戦も始めている。「餅屋としてのビジネスを発展させていきたい」と県外進出も視野に入れている淳さん。越前が誇るあめこの味が、日本中の人たちに届く日も近い。