越前とは(Prologue)

越の国の玄関口としてTraditional Areas

福井県はかつて「越前」と「若狭」という二つの国でした。現在の区分である嶺北エリアに、嶺南エリアの一部である敦賀市を加えた地域が「越前」と呼ばれます。
日本史における越前の登場は非常に古く、日本最古の歴史書である『古事記』『日本書紀』にも、今から約1500年前、越前平野の周囲に100数十mを超える数多くの前方後円墳が築造された古墳時代中期に、越前の豪族の娘から生まれた継体大王が成長して越の国を治め、507年には大和朝廷に迎えられて樟葉宮(くずはのみや)で即位し、継体天皇として倭国(日本)を統治したことが記されています。
当時は三国、敦賀をはじめとする日本海側の秀でた港から大陸の文化が真っ先に越の国に流入し、その中心であった越前は古代の国際都市であり、高度な技術を持つ多くの渡来人が居住する文化水準の高い地域でした。現在の越前市に、朝廷が地方を司るための役所である「越前国府」が置かれていたことからも、越中・越後まで連なる巨大な越の国の玄関口として、政治・文化・産業が行き交い集積する重要な地域であったことが伺えます。当時の最先端の文化や技術は、越前から日本各地へと運ばれ、広がっていったのです。

越前と工芸Sacred place for Traditional Crafts

越前には、この地域の風土に根ざし、職人たちによって長年にわたり受け継がれてきた伝統産業がいくつもあります。国の伝統的工芸品にも指定されている「越前和紙」「越前打刃物」「越前箪笥」などです。
越前和紙の始まりは1500年ほど前。今立五箇を流れる岡太(おかもと)川の上流に美しい姫があらわれ、村人に紙漉きの技を教えたといわれます。以来、人々はこの姫を「紙祖神 川上御前」と敬い、美しく多様な和紙を漉き続けています。
越前打刃物は、日本古来の火づくり鍛造技術と手仕上げによる工程を、約700年も守り続けています。近年は包丁やテーブルナイフがヨーロッパをはじめとする世界の一流レストランやシェフの間で高い評価を得ています。
越前箪笥は、江戸時代後期にその技法が確立されました。ケヤキやキリなどの無垢材を独自の指物技術によって組み手加工し、鉄製の飾り金具や漆塗りで装飾した重厚なつくりが特徴です。
越前にはこれらの伝統的な工芸の工房がたくさん存在し、中には職人の仕事の見学や体験ができる工房もあります。

越前の魅力Looking through the hidden Origin of Japan

7世紀〜8世紀頃につくられた日本最古の和歌集「万葉集」の歌にも登場し、1000年以上に渡って読み継がれている日本文学「源氏物語」の作者 紫式部も滞在した越前は、奈良や京都の文化とも深い関わりがあります。戦時に空襲をまぬがれたため、歴史の面影をとどめる古いまちなみや寺社が数多く残り、積み重ねられた時代を、まちを歩きながら感じることができます。また、春の桜に始まる四季折々の野山やコウノトリが生息する田園の風景、美しい水など自然環境にも恵まれ、その中で豊かな食文化も育まれています。とくに辛み大根のおろしを添えた越前そばは、店ごとに少しずつ違う個性を楽しめる郷土食です。伝統的な工芸や共同体とひとつになった神事・祭りも住民によって大切に守られ続けています。いにしえの時代から続くゆったりした時間の中で、知るほどに味わい深い越前の旅をお楽しみください。

越前の風景Landscapes of Echizen