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大正時代に建てられた蔵の中に、越前和紙の「いま」が広がっている。大判の和紙にレザーのような漆塗りの和紙、ちぎって渡せる和紙の名刺……、杉原商店のギャラリー兼店舗「和紙屋」には、想像を超えるクリエイティブな世界があった。
「職人の旺盛なチャレンジ精神の賜物ですね。今立は他の産地と比べて職人と問屋の結びつきが強く、二人三脚で歩んでいることも大きいと思います」
そう語るのは杉原吉直さん。1871年(明治4年)から問屋業を営む同店の10代目当主で、職人と協力しながら数々の商品を世に送り出している「和紙ソムリエ」だ。
幕府や藩の保護を受けた紙座がなくなってから、職人は特色ある紙漉きを追求し、問屋は彼らの技が生きる場を開拓してきた。
明治政府が発行した最初の紙幣「太政官札」、一流の画家を魅了する絵画用の和紙、現代の名建築を彩るインテリア素材と、伝統の和紙から多様化していくさまは、越前和紙が活路を切り拓いてきた挑戦の歩みだ。
そのなかで杉原さんは日本の精神や伝統美をあらわす素材として越前和紙を発信し、独自の商品づくりを通して建築やアートの分野で認知度を高めてきた。
「自分が欲しいものを基準に商品をつくっているので、面白いと感じて吸収したことが問屋としての力になっているのかな」
杉原さんは「人との出会いから得たヒントを素直に実行した結果」と語るが、その行動力は越前和紙の魅力を海外に広める道筋をもつくった。今では問屋は表に出ないという不文律を超え、杉原商店が扱うことがひとつのブランドになっている。
パリ、ロンドン、N.Yと販路を広げる過程で、杉原さんは海の向こうから日本を見たことで、越前和紙の素晴らしさを強烈に再認識したという。それは「越前は世界最高の和紙の産地」と本気で信じる気持ちになり、新しい分野の開拓や商品づくりにいっそう精力的に取り組み、職人の創作意欲に刺激を与える原動力になっている。
「職人が創作に専念できる環境を支えるのが問屋の仕事ですから」
越前に行けば最高の紙が手に入るという価値をつくり、産地を守っていくために力を尽くそうとする杉原さん。穏やかに微笑みながら繰り返す言葉に、問屋としての矜持が宿る。
文:佐藤公美恵
Text/Kumie Sato