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栁瀨良三製紙所(やなせりょうぞうせいしじょ)は、紙漉きの紙祖神をまつる岡太・大瀧神社の参道にある。店頭のRYOZO SHOPをのぞいていると、「よかったら工場の作業を見ていきませんか」と店長の栁瀨靖博さんが声をかけてくれた。年季の入った硝子窓の向こうでは、3代目の栁瀨京子さんら5人の女性が紙漉きに精を出している。
古くから和菓子屋のかけ紙や包み紙などを手がけ、薄紙といえば良三といわれるほど、しなやかな薄手の和紙を得意としてきた。なかでも30年以上の空白を経て復活させた「金型落水紙」は、京子さんにしか漉けない唯一無二の技法だ。
「漉きあがって乾く前の和紙に金型を置いて、水滴をふりかけるんです。それだけなんですが、ああやってまんべんなく柄を出すのが難しくて」
靖博さんが指さす先には、レースのように繊細な和紙が飾られている。金型の柄と水滴が生み出す思いがけない模様が複雑に交錯し、一期一会の美しさを生み出していた。目に留まってショップに立ち寄った人が、和紙の豊かな表情に魅入られてつい長居してしまうのもよく分かる。
「ここは店というよりも、まち歩きの途中でふらりと立ち寄れる休憩所。いろいろな工場の和紙を見たり、作業場をのぞいたり、職人と話をしたり、自由に過ごしながら越前和紙を楽しむ場所なんです」
ひと休みにうれしい小上がりも長居の理由のひとつ。越前和紙で折り紙に興じながら、金型落水紙や作家が手がける越前和紙のクラフトを暮らしに取り入れる提案を眺められる。
2020年、靖博さん達の活動はさらに拡大していく。独自に紙漉きインストラクター資格を設け、地域の子供会やイベントで紙漉き体験を行う人材の育成を始める。紙漉きの知識を持った人を増やし、和紙の魅力をより広く伝えていくためだ。
また、工場に調理師と栄養士の免許を持つ職人がいることから、参道の空き家を活用した職人カフェのプロジェクトもスタート。職人として働きながら彼女たちの特技も生かせる道筋をつくっていく。
「お客さんが職人と気軽に交流して、和紙好きが集う拠点にしていきたいですね」
紙漉きと紙好きを結び、越前和紙をもっと身近にしたい。その想いの原点には、目を輝かせて和紙に見入る、紙好きたちの笑顔がある。
文 / 佐藤公美恵
Text / Kumie Satou