観る
越前市街地の東側に位置する味真野(あじまの)地区は、継体天皇ゆかりの地といわれ、万葉集に詠まれた地としても知られている。北陸自動車道「武生IC」から車で10分ほどの場所にある「味真野小学校」は、春の時期になると校庭の真ん中に佇む見事な一本桜が咲き誇る。元気に遊びまわる子供たちを温かく見守るように咲くエドヒガンは、樹高約15m、幹回り約3m、推定樹齢150年を超える大木だ。
この桜は、1905(明治38)年に味真野小学校の前身である清雅(せいが)小学校の校庭に記念として植樹され、その後、昭和4年の学校統合により、現在の場所に移植された。エドヒガンは越前市内にある桜のなかでもまれにみる大木で、昭和53年10月1日に市指定文化財に指定された。
「この桜にいろんな生き物がやってくるんですよ。虫だけでなく鳥も。キツツキは穴を開けるから困るんだけどね」と語るのは、味真野小学校の桜の保存活動を手がける高野宏明さん。
毎年春に枝いっぱいの美しい花を咲かせ、たくましい樹勢を保つことができるのは、高野さんをはじめ、ボランティアの皆さんによる日頃の世話と手入れの賜物だ。平成15年に「味真野小学校の桜部」を立ち上げて以来、17年にわたりこの桜を若い芽が育ちやすいよう剪定や施肥、草刈りや樹木医の診察など、一年を通して保存活動を行っている。
校庭に根を張る一本桜は、4月の花見の頃になると、この見事な姿を一目見ようと市内外から多くの人たちが訪れる。桜部の皆さんの活動によって、満開の頃はライトアップされた幻想的な夜桜鑑賞も楽しむことができるようになり、その取り組みはNHKの『新日本風土記 さくら十の物語(2014年放送)』にも取り上げられた。
「毎年、満開の桜を見ることで私自身も元気づけられています。地域の宝であるこの桜を守ることの大切さを多くの人に伝えたいですね」
校庭の一本桜は、これからもこの場所で多くの人たちの思い出をつくり続けていく。
文:石原藍
Text/Ai Ishihara