食べる/泊まる
風情豊かな石畳小路に寺院や料亭が軒を連ねる寺町通りは、越前国府が置かれた旧武生市街の“らしさ”があふれる一角だ。2021年(令和3年)3月、この地を玄関口とする宿泊施設『Echizen京よろず』が誕生した。
「越前市は伝統工芸がさかんな“ものづくりのまち”。豊かな歴史や文化に育まれた魅力を、もっと伝えていきたいんです」
そう語るのは、宿泊施設『Echizen京よろず』を立ち上げた萬谷聡さん。同地で料亭を営む『おりょうり 京町 萬谷』の2代目だ。料理のしつらえに越前和紙や越前焼、越前打刃物を取り入れ、伝統産業の品を使いながら懐石料理を味わう演出を凝らしており、越前市出身の天皇の料理番・秋山徳蔵氏の宮中料理の再現を行うなど、料理を通した地域の魅力発信にも力を入れている。
「秋山徳蔵氏のことを知るなかで、丹南に伝統産業が数多くあることやものづくりに携わる人たちの熱意に触れ、私たちだからできる何かを考えました。それが萬谷のルーツである“旅館”だったんです」
萬谷は1950年(昭和25年)頃開業の『旅館あかし』が前身だ。2018年(平成30年)に経営をしていた祖父母が高齢になったこともあり営業を見合わせていた。しかし、リノベーションによって息を吹き返し、新築される1棟貸しのゲストハウスとともに新しい歴史を刻み始める。どの部屋にも越前市の伝統工芸がちりばめられており、空間と萬谷の料理で地域の魅力を堪能する和風オーベルジュのような宿である。
「丹南地区の伝統工芸は生活に密着したものが多く、料理や空間と相性がいい。宿泊することでより興味を持って、産地に足を運ぶきっかけにしてほしいですね」
聡さんは丹南地区の伝統工芸や郷土の歴史文化を「丹南遺産」と名付け、京よろずに訪れる人と丹南遺産をつなぐ架け橋になろうとしている。
「これほど多彩な伝統産業を見て回れるまちは少ないと思います。だからこそ、自分しか知らない魅力、自分だけのおすすめの場所を探す楽しさを体験してほしいと思っています」
聡さんは今後、伝統産業の産地を訪れる宿泊プランも提案していきたいという。古くから受け継がれる丹南のものづくりの源流を知る旅は、美食と心地よい宿をセットに楽しむのがよさそうだ。
文/佐藤公美恵
Text / Kumie Satou