渡守恭平/清水有紗福井県内在住

Recommend Tour03

タケフナイフビレッジ Spot_1

さまざまな背景をもった方に、越前市の風土を感じてもらう旅。今回は福井県内在住の渡守恭平(わたしもり・きょうへい)さんと清水有紗(しみず・ありさ)さんのお二人に、越前のものづくりを体験していただきます。

越前市はさまざまな伝統工芸が息づいていますが、なかでも伝統的工芸品に指定されている「越前打刃物」は、その抜群の切れ味や美しさから、日本国内はもちろん世界のトップシェフも愛用しています。

実はお二人はもうすぐ結婚予定。今回の旅は「世界で一つだけのマイ包丁」をつくることが大きな目的です。

「地元でありながら、福井の伝統工芸は知らないことも多い」と語るお二人。「越前打刃物」のものづくりを通して、あらためて地元福井の魅力を再発見する機会にもなりそうです。

最初にやってきたのは「タケフナイフビレッジ」。越前打刃物の職人たちが集まった共同工房で、刃物づくりの見学や体験が楽しめる施設です。今回は二人の新生活に使う包丁をつくるため、伝統工芸士の戸谷裕次(とたに・ゆうじ)さんに刃物の砥ぎを教えてもらいながら、オリジナルの包丁をつくっていきます。

まずは刃物の構造や特徴を戸谷さんに説明していただきます。戸谷さんは刃物のなかでも切れ味を左右する「砥ぎ」を手がける職人。刃物の切れ味やメンテナンスのことなど気さくに相談できる、産地の職人のなかでも兄貴的な存在です。

包丁といっても鉄製やステンレス製などさまざまな種類があり、切れ味や特徴が異なるそう。一般的によく使われているのはステンレス製の包丁ですが、その扱いやすさから、砥がずに使い続けている人も多いかもしれません。

「包丁の砥ぎが自分でできるようになると、びっくりするほど切れ味が変わりますし、さらに料理が楽しくなるはずですよ」と戸谷さん。では、刃物を砥いでいきましょう。

刃物を砥ぐ時は利き手で包丁を持ち、刃の中央部分を押さえながら砥いでいきます。水を少しずつ加え、刃先を砥石に押し当てるようにしながら動かしていくのがポイント。

刃物を砥ぐのが初めての二人は、最初こそぎこちなかったものの、砥いだ部分が少しずつ鋭くなっていくにつれて動きもスムーズに。ジャッ、ジャッと砥ぐ音もリズミカルになってきました。

「コツがわかってくると楽しくなってきました」と恭平さん。刃先を見つめるまなざしは真剣そのもの。

「砥ぎの作業って無心になれるので、心を整えたい時にいいかも」。有紗さんも丁寧に、集中しながら刃物に向き合っています。

無心で砥ぎ続けること、約20分。刃物の切れ味を試してみます。紙に刃物を当てると……力を入れていないのに、するりと紙が真っ二つに。

「こんなにきれいに切れるの!?」と有紗さんも驚きの表情です。

砥いだ刃物には、好きな文字を刻印することもできます。

今回は自分たちのマイ包丁なので、それぞれの名前を刻印することに。一文字ずつ、こちらも集中して打っていきます。

文字がちょっと歪んでもご愛嬌。世界に一つだけの包丁、まずは刃物の部分が完成です。

柄と繪 Spot_2

次に訪れたのは「柄と繪(えとえ)」。県内唯一の「包丁の柄」に特化したメーカー、山謙木工所が2020年9月にオープンしたギャラリー&ショップです。

こちらでは、山謙木工所がつくる包丁の「柄」に、越前漆器を彩る伝統技術「蒔絵(繪)」を施した一品ものの包丁やアクセサリー、小物などが並んでいます。

山謙木工所の4代目、山本卓哉さんにギャラリーを案内してもらいます。越前打刃物と越前漆器、二つの工芸のコラボレーションはこれまでありそうでなかったもの。伝統工芸同士の技術が融合したカラフルでデザイン性の高い柄に、恭平さんも見入っていました。

こちらでは、包丁の柄に漆で絵付けをします。教えてくださるのは、蒔絵師の山本由麻さん。大学で漆芸を学び、卒業後は越前漆器の産地・鯖江市河和田地区の蒔絵師に師事しながら修行を積んでいました。結婚を機に山謙木工所に入社し、蒔絵の技術を生かしたさまざまな柄を生み出しています。

どんな柄にしようかな……デザインを考えるのも楽しい時間。

実際に柄に描く前に、まずは細い絵筆を使って線を描く練習をしていきます。簡単なように見えますが、ちょっとした力加減ですぐに線が太くなったりかすれたり。実際にやってみると、その難しさがよくわかります。

恭平さんは朱と白の漆で縦縞のような模様を、有紗さんは指でランダムな水玉模様の柄をつくることに。絵付けの間も山本さんから越前打刃物や漆の話を聴き、工芸の理解を深めていきます。

「自分たちが住む地域にこんなすごい職人技が息づいているなんて初めて知りました」と有紗さん。話に花が咲き、あっという間に時間が過ぎていきました。

先ほど「タケフナイフビレッジ」で砥いだ刃を柄に挿げたら、ようやく世界に一つだけの包丁の完成です。自分で砥ぎ、絵付けした包丁は愛着もひとしお。二人の個性が光ります。

「マイ包丁ができたし、僕も料理始めてみようかな」と恭平さん。マイ包丁を手にしたことをきっかけに、料理という新たな趣味が増える……かもしれません。

栄雲堂 Spot_3

マイ包丁づくりを満喫した二人。一息つこうと最後にやってきたのは「栄雲堂」です。実は老舗和菓子店が多い越前市。「栄雲堂」も明治32年創業と歴史が古く、店内では桜餅や栗きんとん、丁稚ようかんなど定番の和菓子から旬のフルーツを使った洋菓子まで、常時30〜50種類近い商品があり、店内ではイートインも楽しめます。

恭平さんはお抹茶、有紗さんはコーヒーでリラックス。

今日1日を振り返りながら、職人さんたちと過ごした時間をことを語り合います。「今度はどんな伝統工芸を体験しようかな」と次の旅の話も。

恭平さんも有紗さんも、すっかり伝統工芸の魅力に引き込まれたようです。