Anna滝ヶ原しぜん学校
Recommend Tour01
さまざまな背景をもった方に、越前市の風土を感じてもらう旅。今回は、デンマークから5年前に日本を学びに来て、現在滝ヶ原ファームで農的生活を学ぶ「滝ヶ原しぜん学校」を運営するアナを伴って、日本の風土を愛する外国人の目線で越前を旅します。
デンマークは世界有数の教育先進国。アナのお父様は、デンマークではポピュラーな生涯学習の学校「フォ. ルケホイスコーレ」の校長先生を務めていて、本人は次世代の教育として世界的に注目を集めるビジネススクール「カオスパイロット」で学んだ経歴を持ち、教育の分野、特に食育をテーマに活動しています。 福井と言えば食育のルーツ。食育を世に広めた石塚左玄の生誕地です。今回の旅は、彼女の視点で越前を巡ってみました。
まず訪れたのは、龍泉刃物さん。今回は包丁づくりを体験します。 子供の頃からお父さんが作ってくれたナイフを使っていたり、道具を自分で作る文化の中で育ったアナ。今回の包丁づくりも楽しみながら作業を進めていきます。全ての製品を試すことができるギャラリーも素晴らしいですが、体験工房もプロ顔負けの作業が可能になっていて、とても満足感の高い経験が得られます。出来上がった包丁は文字通りの一生モノ。買うことでは得られない道具への愛着を感じられます。
包丁づくり体験を終えたアナ。続いて越前の食文化を学びに、越前市出身の天皇の料理番「秋山徳蔵」氏を讃えたトリビュートランチを提供する「萬谷」さんに伺いました。
風情漂う古い町並みが残る京町エリア。石畳がとても印象的です。入り口から続く小路の先には茶室「間怡庵(かんいあん)」がひっそりと佇んでいます。
国府の宿場町としての個性が色濃く残る京町エリア。政治や商業の中心地で必要とされる食環境を30年以上に渡って担ってきた萬谷さんから、周辺文化や、越前の食の歴史をお聞きして、アナも新しい知識に目を輝かせていました。
今回いただくランチは、越前の食材を越前の技法で調理しています。例えば、100年以上続く越前の豆腐屋さんのおからを使ったり、秋山氏が天皇にジビエ料理を多く提供していた背景から合鴨を用いたりするなど、歴史と風土を一度に味わえる内容になっています。居心地の良い茶室作りの間怡庵で、ゆっくりと語らいながらいただく食事は格別でした。
続いて伺ったのは、越前箪笥の技術を学び、主に注文家具の受注販売を行う「ファニチャーホリック」さん。工房が立地する大虫町の景色がとても素晴らしく、しばらくその景色を楽しんでいたら、アナは少しだけうまれた待ち時間に日光浴を楽しんでいます。食事のあとですから少し緩む時間も必要。アナと一緒にいると、生活のペースを考えさせられます。
こちらではオリジナルの箸をつくるワークショップを体験できます。制作で生じる端材をゴミにしてしまわず、どうにか良い形で使えないかと考えられたのがこのワークショップ。デンマークの学校で学ぶ一年間、スーパーから出る廃棄食品だけで生活するなど、自身の体験を通して社会活動を行うアナ。できるだけ環境負荷を与えないで生活しているので、普段からマイ箸を持ち歩いています。端材をつかって自分の箸が作れる機会は彼女にピッタリです。
代表の山口さんから、まずは道具の手入れの話から伺います。道具はなによりも手入れが大事。家具職人は様々な道具をつかいますが、特に重要なのがカンナ。カンナの刃を研ぎながら、しっかり手入れされた道具と職人の優れた技術が組み合わさると、製品自体が長持ちするお話に感銘をうけました。手作りのものを選ぶのは、お気に入りのものをできるだけ長く、大事に使いたいと思うからこそです。
ふくいブランド大使を務めるきっかけになった、越前箪笥型のキャリーケースを囲みながら、工藝、ものづくりのこれからについて話がはずみます。
山口さんが開発した、初めてカンナを使う人でもきれいにひける治具を使って、一本ずつ調子を見ながら削りをいれていきます。先生のサポートもあって、満足のいく箸ができたアナ。削りかすをつまんで思わず笑顔がこぼれます。
お箸作りを終え、次に向かうは和紙の聖地、今立五箇エリアへ。
岡太神社・大瀧神社に向かう参道の道すがら、いつも気になっていたお店「栁瀨良三製紙所」さんに伺います。
ドアを開けた先には、所狭しと和紙を用いたプロダクトが並んでいます。並んでいる商品は、栁瀨さんのアイテムだけでなく、近隣同業のみなさんの商品も取り扱っているとのこと。
栁瀨良三製紙所さんが得意とするのは、透明感のある薄紙楮紙という種類で、和菓子の包み紙や敷き紙などに使われています。美しい模様が特徴の和紙ですが、2枚の和紙を手で漉いて張り合わせるため、作業場では3人の女性が息の合った連携作業で次々と和紙ができあがっています。
原料の準備などを男性が担当し、紙漉きを女性が務める分業が前提の環境。紙漉きの伝統工芸士の多くが女性なのは、越前和紙の特徴の一つです。岡太神社・大瀧神社に伝わる紙漉きの女神のお話も、こういう環境を見ると、うなづける気がします。
女性たちに混じって、アナも紙漉きを教えていただきます。金型落水紙という、漉いた紙の上に模様をつける金型をのせて、シャワー状の水滴の勢いで柄を生地に写し込む越前和紙伝統の技法に挑戦。
さすがに一回ではうまくいきませんが、何度かやっているうちにコツをつかみ、美しい渦巻模様の入った和紙を漉くことができました。さすがにプロの現場です。あっという間に乾燥まで終わる環境が揃っています。
こちらの工房も、クラフトツーリズムなどの企画で、年に数回この環境を使って紙漉き体験を行うことができますので、ぜひその機会に訪れてほしいです。
無事に紙漉きを終えたアナを伴って、岡太神社・大瀧神社を訪問します。
紙漉きに適した環境のせいか、少し湿度を伴った空気感が神聖な印象を高めています。マイナスイオンを浴びるように、ゆっくりと境内を散策するアナも、この土地のちからを感じているように思いました。
アナと共に越前市をめぐる旅もいよいよ最後の目的地「山ふところ工房」さんに。 丸一日しっかり越前市を巡っていい疲労感。そしてお腹もいい感じに減ってきました。
農家民宿を謳っている宿泊施設ですから、きっと美味しいごはんが待っていると期待に胸が膨らみます。
「山ふところ工房」さんは越前市の中でも山深いエリアに位置しています。
工房を営むのは、工芸作家の山口ちとせさんと科学者の榊原教授のお二人。
谷戸の一番奥まった集落の一軒家をリノベーションして、農家民宿らしい周辺食材を使った郷土料理を頂いたり、
藍染体験や味噌作りなど、お二人の個性が最大限に反映された様々な体験を提供しています。また、宿泊はもとより、ランチや夕食だけでも利用することが可能で、越前周辺の食材を使った郷土料理を手軽に楽しむこともできます。
工房に到着すると、ちとせさんの温かいお出迎え。手渡されたのは手作りのちゃんちゃんこです。
優しい着心地とお布団をかぶっているような温かい安心感に包まれて、すぐに気持ちもときほぐれ、おばあちゃんの家に帰ってきたような居心地の良い空間に、すっかり和んでしまいます。
色々とお話しを伺うのですが、榊原教授が目の前で握ってくださるお寿司から目が離せません。
毎回これが普通ですというそのボリューム感にも驚きますが、海水で育てたトラウトサーモン「ふくいサーモン」や、越前海岸で採れた旬のアオリイカなど、その食材のクオリティの高さと職人顔負けの出来栄えにびっくり。
工房全体にあしらわれた工芸作品と同様、工芸作家のちとせさんらしい食事のプレゼンテーションに感動を覚えます。
ここは誰かとゆっくり語らうのが一番良い使い方だから、面白いおしゃべり相手を誘っておいたからと紹介頂いたのが、この土地に惚れ込んで、移り住んできた樹護士をなりわいとする加登さん。樹護士は一般的にアーボリストという名称で呼ばれるそうですが、切った木を売って生計を立てるのが木こりだとすると、アーボリストは主に木を切って生計を立てている職業だとか。
さらに驚いてしまったのは、木こりになる前はサルベージ専門のダイバーをされていたとのことで、お話し相手としてこれ以上、知的好奇心がくすぐられる方もおらず、さらに英語もご堪能でアナと深い話に花が咲いていました。
そこに、五歳の息子さんと初めてのふたり旅に出ようと、こちらを宿泊地に選んだ栗谷さん親子も混じり、美味しいお食事とお酒が進む中、語らう時間を楽しみました。
ちとせさんは、箸と日本の文化を子どもたちに伝え、思いやりのある社会形成を目指す「はし和文化研究会」の活動もされています。食前には「いただきます」と「ごちそうさま」の意味を話し、居合わせたみんなで感謝の祈りをささげてから食事を頂いたり、食後には箸の使い方を教えて頂いたり、より思い出深い宿泊体験を得ることができます。
遅くまで続いた晩餐はアナにとっても、とても充実した時間でした。希望者には朝ごはんに餅つきができるとの話を伺って、今度来るときは滝ヶ原ファームの仲間を伴って、宿泊しに来たいねと後ろ髪を引かれながらの帰宅になりました。
今回の旅、日本人のみならず、外国人にとっても、越前市の深い文化、魅力を十二分に感じるものでした。
内木洋一 / Botanically 写真と企画
外資企業や医薬品商社でマーケティング職を20年に渡って経験。交通事故に遭い長期の療養を経て、自身の活動をコンテクストデザインに置くことに。TAKIGAHARA FARMの立ち上げと共に鎌倉から移住し、地域おこし協力隊として活動を終えた現在は、カメラマン、企画、薬草家として複数の生業を持ちながら、craft soundscapesなどの活動を行っている。人や薬草、あらゆるものを混ぜることが好きです。